摂食障害と蘭 Eating Disorder Ran

[書評・評論]摂食障害の描写のある小説6冊

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書評

摂食障害の描写のある小説いろいろ

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本好きになったのはやはり物語が好きだから。ジャンル問わず雑読しているつもりですが、小説はその中でも大きな割合を占めています。摂食障害の登場人物が出てくるとつい注目してしまう。今年の初めに出版された荻原浩さんの短編集「冷蔵庫を抱きしめて」(新潮社)を読んで、今は男性作家さんもこんなにナチュラルに摂食障害を描く時代になったのかぁと感慨深くなりました。

この作品は表題作でまさに摂食障害の女性が主人公として描かれているのでいずれじっくり感想を書くとして(小説としてもとても面白いので興味のある方は是非)、今日はここ1年くらいの間に出版されたなかで、摂食障害の描写のあった小説をいくつか取り上げたいと思います。感想は割愛しましたが、今回ピックアップしたものはほぼ新刊なので今本屋さんや図書館に置かれている可能性が高いし、どれも現代の時事性が強いうちに紹介したくてこういう形をとりました。

惹かれるフレーズなどがあれば是非手にとって、物語そのものをゆっくり楽しんでみてください(小説のメインテーマ自体は摂食障害と無関係なものもあります)。それぞれ摂食障害関連の描写部分だけを以下に抜粋してみました。

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①唯川恵「啼かない鳥は空に溺れる」幻冬舎

「私ね、高校生の頃、拒食症だったの」
「えっ・・・」
亜沙子は思わず顔を向けた。
「最初は痩せたいだけで、とにかく何も食べないようにしていたの。そしたら本当に食べられなくなったのよ。無理に食べても吐くばっかりで、もうガリガリになって、生理も止まっちゃった。それを助けてくれたのが母なの。私を病院に連れて行って、治療を受けさせて、ようやくまともな食生活を送れるようになったの」
そんな話を聞かされるなんて思ってもいなかった。
「もともと、母はお嬢様育ちで、おっとりしてるっていうか、天然のところがあったのね。どちらかというと、私の方がしっかりしてて、周りからはどっちが母親でどっちが娘かわかんないって、よく言われたのよ。でも、その時ばかりは母は必死だった。私を助けるためにものすごく頑張ってくれたの」
「そうなんですか・・・」
「ああ見えて、イザという時には腹をくくれる人なんだって、見直しちゃった。それで立ち直ることができたんだけど、結婚したら再発してしまったの。私にとって結婚生活は重圧でしかなくてね、仕事もしなくちゃいけない、家事もしなくちゃいけない、その上、夫の両親ともうまく付き合わなきゃいけないっていうので、毎日追い詰められるばっかりだった」
亜沙子は何て答えていいのかわからない。
「もう、ぜんぜん食べられないの。食べることに興味が湧かないっていうか、意識がいかないっていうか。でも、夫も夫の両親も力になってくれなかった。助けてくれたのはやっぱり母だった。それで離婚して、実家に戻ったの。今の暮らしは快適よ。父が死んじゃった時は心細くもなったけど、それにももう慣れたし、母となら余計な気を遣う必要もないでしょう。話も合うし趣味も合うし、とにかく母と一緒にいるのが何より楽なの。今度、ふたりでヨーロッパにでも旅行しようかって計画してるのよ」
「豪勢ですね」
「男なんかと行くよりよっぽど気楽よ。こんなこと言うと、マザコンだとか相互依存だとか言う人もいるけど、別にいいの。だって私がいちばん心地いいって思えるんだもの、余計なお世話よね」
最後、路子は明るい笑い声で締めくくった。

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②藤崎翔「私情対談」角川書店

あとはやっぱり、早寝早起きを心がけてますね。
(まあ、「食べては吐きを繰り返してスリムな体を作ったことと、三回の整形手術でキレイな顔を作ったことが美の秘訣です」なんて、本当のことは口が裂けても言えないわな)
(中略)そのうち、お菓子どころかどんな食べ物も喉を通らなくなった。当時あたしはちょっとふっくらしてたんだけど、それがどんどん痩せていった。最初は、これでダイエットしなくていいかな、なんてちらっと思ったりもしたけど、生理が止まってからはさすがに焦った。でも、無理して食べても吐いちゃって、食べては吐きを繰り返す日々が続いた。
そのうちに「痩せててキレイ」と言える範囲を超えて、「痩せすぎてて気持ち悪い」レベルにまで達してしまった。

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③島本理生「夏の裁断」文藝春秋

拒食症の子が、なんとか吐かずに少量ずつ食事を口にするように、慎重に一文一文を、飲み込んでいく。

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④うかみ綾乃「ドミソラ」幻冬舎

あるものぜんぶを平らげた。だが満腹にはほど遠い。(中略)
由羽はまたキッチンに行き、冷凍たぬきうどんを二玉、鍋に放り込んだ。そして棚に買い置きしていたスナック菓子の中から、ポップコーンとポテトチップを選んでまたパソコンの前に戻った。
(中略)たぬきうどん二玉を食べた後、ひとまずトイレに立った。
便器に屈み、喉に指を押し込んだ。
まだ熱いと感じるうどん麺と揚げ玉が、かつお風味の汁にまみれて便器に噴出した。また舌の付け根を指で圧(お)す。三回目の嘔吐で、ポテトチップのドロッとしたオレンジ色の塊がうどんの上に溜まる。
過食嘔吐は摂食障害のひとつと思われがちだが、外見が誰の眼から見ても気持ち悪いくらい痩せない限り、障害とはいえない。少なくとも由羽にとっては単なるストレス解消法の一種だ。食べたいものをお腹いっぱい食べて欲求を満足させる。だけどこれ以上太りたくないから吐く。ちゃんと自己コントロールできている。農薬で自然を破壊するゴルフ場でゴルフをするより、大量の水を消費するプールで泳ぐより、廃棄される食品を救い、便器に流す水が少々増える程度の健全な欲求不満解消行為だ。
それでも由羽は胃袋が大きいのか、それとも異常に吸収しやすい体質なのか、いくら喉に指を突っ込んでもぜんぶは吐ききれない。痩せぎすになるどころか、いつまで経っても小太り体型のままだ。

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⑤窪美澄「晴天の迷いクジラ」新潮文庫(ただし単行本は2012年に出版されています)

母の作ったものなど、もう食べる気はなかったけれど、それでも空腹に負けて、母の足音が部屋から遠ざかるのを確認して、茶碗や皿の載ったトレイを部屋の中に持ち込み、ドアに鍵をかけて一人で食べた。けれど、部屋に閉じこもる日が長くなるにつれ、食欲は少しずつ低下していった。
(中略)部屋に閉じこもって二週間が過ぎて、なぜだかどうしても食べられなくなったのは、白いご飯と肉だった。ブロッコリーやピーマン、緑色の野菜も食べられなくなった。食べると虫のにおいがするような気がした。正子が残したものを見て、母はその食材を使わずに料理を作った。正子がご飯を食べられなくなればパンに変え、肉や緑色の野菜が食べられなくなれば、白身魚の入ったトマトスープや、甘いパン粥を作って、正子の部屋の前に置いた。噛む必要のない離乳食のような食事なら、ほんの少しだけなら食べられたが、日が経つにつれ、のどが詰まるような気がして、ほとんど食べられなくなった。母が作った食事だと思うと、どうしても口に入れられなかった。困り果てた母は、もらいものの、市販のプラスチック容器に入った白桃入りのゼリーを正子の部屋の前に置いた。正子はそれを半分だけ食べた。
甘いデザートなら食べられるのかもしれないと考えた母は、手作りのゼリーやプリンを部屋の前に置いた。けれど、正子はそれを食べることができなかった。母は落胆しながらも、コンビニで売っているようなゼリーやプリンを部屋の前に置き続けた。正子の体に悪いからと今まで与えたことのないものばかりだった。父や母が寝静まった夜更け、正子はそれを口にした。それだけは正子が食べられるものだった。

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⑥小説ではないのでおまけ 村上春樹「村上さんのところ」新潮社

▷こんにちは、村上さん私はダイエットをしています。ですが痩せたい、自分を変えなければいけないと思いつつ食べてしまいます。一回は成功しましたがまた戻ってしまいました。私は自分に弱いのでしょうか。
(匿名希望、女性、17歳、学生)

▷17歳でダイエットをしているんですか。たいへんですね。体重を減らす方法は三つあります。三つしかありません、というべきか。だからダイエット本なんて読む必要ないんです。とてもシンプルなことです。
①食べ物を減らす(適正な量にする)
②日々適度な運動をする
③恋をする
最後のやつはけっこうきますよ。がんばってくださいね。でもくれぐれも拒食症になったりしないようにね。

気になる作品はありましたか?
摂食障害の描写のある小説や漫画の情報、いつでもお待ちしています!

 

執筆者

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名前:むちむち
年齢:1979年生まれ
性別:女

16歳頃から過食が始まりました。ずっと吐かない過食でしたが、2011年の暮れ頃に吐くことを覚えてしまい、そこからは毎日過食嘔吐。ひどい時は一日4〜5回食べ吐きを繰り返していましたが、現在は一日一度に落ち着いています。
私はダイエットがきっかけではなく、幼少時に受けた性虐待などが原因だと今のところ診断されています。摂食障害の他にもPTSD、うつ病、解離性障害、身体表現性障害、衝動制御障害など…色んな診断名がつけられてきました。過食が始まった頃から精神的にも不安定になり、自殺未遂を繰り返した時期もありましたが、今は短時間ながら働けるところまで快復しました。
本の虫で、とにかく数だけは読んでいるので、主に摂食障害に関する本の感想などを書くことなんかで皆さんとつながっていきたいなと思っています。よろしくお願いします!詳しくはコチラ

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はじめまして。蘭と言います。1983年生まれ、現在は旦那さんと娘と息子の4人家族で神戸に住んでいます。その前までは、5年の過食嘔吐、嘔吐を辞めて完治するまで9年。全部で14年かけて摂食障害を克服しました。このサイトでは、皆の摂食障害体験を共有するアンケート、摂食障害経験者によるコラム、自由に書き込める摂食障害のための掲示板を管理しています。